盛岡簡易裁判所 昭和34年(ろ)137号 判決 1960年6月06日
被告人 佐々木岩治郎
明四一・七・三一生 会社員
主文
被告人を罰金三万円に処する。
右罰金を完納できないときは金三〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
押収にかかるポスター貼付についてのお願いと題する書面一枚(証二号)ポスター二一枚(証三号)は、いずれもこれを没収する。
被告人に対し公職選挙法二五二条一項の規定を適用しない。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和三四年六月二日施行の参議院議員通常選挙に際し、全国区から立候補した米内一郎の出納責任者であるが、選挙運動期間中である同年五月八日頃から同月一一日頃までの間、盛岡市菜園二〇の四米内一郎の選挙事務所において、同候補者の氏名および写真を印刷した、当該選挙管理委員会の捺印をうけない、法定外選挙運動用文書であるポスター約一二、〇九〇枚を、別紙一覧表記載のとおり小樽市梅ヶ枝町五二番地白石賢治方ほか六一個所に、郵送して頒布したものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は、公職選挙法一四二条一項二四三条三号罰金等臨時措置法二条一項にあたるから、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金三万円に処し、罰金を完納できないときの労役場留置につき、刑法一八条を適用し、押収したポスター貼付についてのお願いと題する書面一枚(証二号)ポスター二一枚(証三号)は、刑法一九条一項一号によつてこれを没収すべく、なお情状に鑑み公職選挙法二五二条三項の規定に従い、被告人に対し、同条一項の規定を適用しないこととし、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項により、全部被告人の負担とする。
(無罪の部分について)
本件公訴事実によれば、被告人は、昭和三四年六月二日施行の参議院議員通常選挙に際し、全国区から立候補した米内一郎の出納責任者であるが、選挙運動期間中である同年五月八日頃から同月一一日頃までの間、盛岡市菜園二〇の四米内一郎の選挙事務所において、同候補者の氏名および写真を印刷した、当該選挙管理委員会の捺印を受けない、法定外選挙運動用文書であるポスター約六五〇枚を、札幌市南九条西七丁目四一七洋服組合桜井豊太郎方ほか三個所(別紙無罪の部分一覧表参照)に、郵送して頒布したものであるとしている。
審按するに、公職選挙法一四二条にいう頒布とは、同条の規定に違反する文書図画を、多数人に配布することを指称し、郵送によつて頒布する場合は、右のような物件を、単に郵便物として差出しただけでは足りず、これを被頒布者に到達させることによつて、頒布罪が成立するものと解するを相当とするところ、被告人の当公判廷における供述、同人の司法警察員に対する昭和三四年六月四日付供述調書およびメモ五七枚(証一号)を総合すれば、被告人は、前記ポスター約六五〇枚を桜井豊太郎方ほか三個所に向けて発送したことを認定し得るに止まり、他の全証拠を精査しても、右文書を、右被頒布者らに到達せしめたと認定し得る資料がない。したがつて、前記桜井豊太郎ほか三名に対する法定外選挙運動用文書頒布の事実については、犯罪の証明がないことに帰する。
しかし、前掲各証拠によれば、被告人は、連続三日の間に、米内弘らをして、前記六五〇枚を含む一万二、〇〇〇余枚の無検印ポスターを、全国六〇余個所に向け、一齊に郵送したことが認められ、本件犯行は、包括的な単一の意思をもつてなされたもので、一個の頒布行為と見るのが相当である。したがつて一罪の一部である別紙無罪の部分一覧表記載の桜井豊太郎ほか三名に対する法定外選挙運動用文書の頒布の点について、犯罪の証明のないことは、前記説示のとおりであるけれども、この点につき、特に主文において、無罪の言渡をしない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 石沢鞏三)
一欄表(略)